ゴヤからピカソ、そして長崎へ 芸術家が見た戦争のすがた

フランシスコ・デ・ゴヤに帰属《巨人》1808年以後、油彩・カンヴァス、プラド美術館蔵 © Photographic Archive. Museo Nacional del Prado. Madrid

企画展

会期
2025年7月19日(土)~9月7日(日)
開館時間
10:00~20:00(最終入場19:30)
休館日
7月28日(月)、8月25日(月) ※8月12日(火)は臨時開館
会場
企画展示室、常設展示室第1室

芸術家たちが描いた作品を通して、被爆80年を迎える長崎から問いかける

2025 年は長崎県美術館開館20周年という記念すべき年であるとともに、長崎にとって被爆80年という節目の年です。長崎県美術館は、被爆地・長崎に在る美術館として、このたび戦争をテーマとした展覧会を開催します。

人類の歴史は戦争の歴史といっても過言ではないでしょう。古今東西、戦争は途絶えることなく繰り返されてきました。今もなお、世界では凄惨な戦争が続いています。共通するのは、権力者たちによる強硬な姿勢の影で、子どもたちを含む多くの民衆が犠牲となっていることです。こうした切実な現状を受け、長崎県美術館では、原爆のみならずむしろそれを引き起こした戦争に焦点を当てます。そしてスペイン美術を標榜する美術館として、収蔵作品であるフランシスコ・デ・ゴヤの版画集〈戦争の惨禍〉を中心に据え、そこから抽出されるテーマに沿って展覧会を構成します。

〈戦争の惨禍〉において、ゴヤの最大の関心は特定の事件を描くことよりもむしろ、それらを通じて露わとなる人間の暴力性、残忍性、絶望や狂気など、戦争が持つ普遍の性質へと向かいました。そしてなによりも、戦争の真の犠牲者である名もなき民衆たちの死が赤裸々に描かれていることがこの版画集の最大の特徴といえるでしょう。〈戦争の惨禍〉の世界観は、戦争という負の連鎖を断ち切ることのできない現在だからこそ存在感を示すのです。

本展では、ゴヤの〈戦争の惨禍〉全点とともに、他の芸術家たちが戦争をどのように視覚化してきたかを、約180点の作品によって考察します。

本展の見どころ

1. ゴヤが見た戦争のすがた

フランシスコ・デ・ゴヤの版画集〈戦争の惨禍〉を全82点展示すると同時に、対仏独立戦争中に描かれた油彩画をスペイン国立プラド美術館から特別に借用し、紹介します。ゴヤの《死した七面鳥》、そしてゴヤに帰属されている《巨人》の両作は、これまで戦争に関連付けて語られてきました。本章では、18‒19世紀にかけて活動したスペインの巨匠ゴヤが戦争をどのように見ていたかに迫ります。

フランシスコ・デ・ゴヤ〈戦争の惨禍〉《15番 もう助かる道はない》1810-14年(1863年初版) 長崎県美術館蔵
フランシスコ・デ・ゴヤ《死した七面鳥》1808-12年 油彩・カンヴァス プラド美術館蔵
© Photographic Archive. Museo Nacional del Prado. Madrid

2. 人間の暴力、そして狂気

この章では藤田嗣治の戦争画やパブロ・ピカソの作品を取り上げ、戦争がいかに人間を暴力、そして狂気へと駆り立てるのかに焦点を当てます。そして戦争が人間の理性を崩壊させていくさまを検証します。

藤田嗣治《〇〇部隊の死闘 ニューギニア戦線》1943年 油彩・カンヴァス 東京国立近代美術館蔵(無期限貸与作品)
©Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2025 E6043

3. 無垢なる犠牲、名もなき民衆の死、性暴力

どの戦争も為政者が掲げた大義名分のもとに行われますが、実際の戦場において必ずしもそれが常に意識されることはありません。あるのは暴力だけであり、またそれによる名もなき兵士や民衆たちの死です。この章では実際の戦場で起こる悲惨な死や性暴力、そして不条理に焦点を当てます。

パブロ・ピカソ《泣く女》1937年 エッチング、ドライポイント、アクアティント・紙 ソフィア王妃芸術センター蔵 Photographic Archives Museo Nacional Centro de Arte Reina Sofía
© 2025 – Succession Pablo Picasso – BCF (JAPAN)
ジュリ・ゴンザレス「《ムンサラット》の頭部素描No.2」1939-41年頃 グラファイト・紙 ソフィア王妃芸術センター蔵
Photographic Archives Museo Nacional Centro de Arte Reina Sofia
丸木位里・俊《母子像 長崎の図》1985年 紙本着色 長崎県美術館蔵

4. 身体に刻まれた傷

身体に刻まれた傷は、精神にも癒えることのない傷跡を残します。ジャン・フォートリエは、ナチスにより過酷な拷問を受けた人々を〈人質〉シリーズとして描きました。1961年に長崎を初めて訪れた写真家・東松照明は、ケロイドの残る被爆者たちに寄り添い、終わることのない彼らの苦しみ、そして生をありのままに撮影しました。

東松照明《山口仙二さん2/中園町》1962年 ゼラチンシルバープリント 長崎県美術館蔵 
© Shomei Tomatsu-INTERFACE
ジャン・フォートリエ《人質の頭部》1944年 油彩、顔料、紙(カンヴァスで裏打ち) 国立国際美術館蔵
©ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2025 E6043

5. 飢えと困窮

戦争ではしばしば、過酷な食糧難に陥ります。戦後のシベリア抑留を経験した香月泰男は、収容所での過酷な食糧事情からくる飢餓を題材に描きました。人間性をも奪う耐え難い空腹感は、戦争が及ぼす大きな災いの一つでしょう。

香月泰男《餓》1964年 油彩、方解末、木炭・カンヴァス 山口県立美術館蔵
北川民次《焼跡》1945年 油彩・カンヴァス 名古屋市美術館蔵

6. 「私は見た」―目撃者としての視点

〈戦争の惨禍〉に《私は見た》という作品がある通り、ゴヤは目撃者としての立場から描写しました。そこでこの章は、原爆の目撃者たちの作品で構成します。長崎原爆投下の翌日に市内に入りその惨状を記録した山端庸介の写真、そして山田栄二の水彩画をはじめ、病に冒されながらも制作活動を続けた被爆者たちの作品を紹介します。

池野巌《呼》1974年 油彩・カンヴァス 長崎県美術館蔵
飛永頼節(被爆者)《レクイエム20》2009年 アクリル・カンヴァス 個人蔵

7. 記憶の継承

戦後80年を迎えるにあたり、被爆の実相を伝え得る被爆者たちが次々とこの世を去っている現状があります。これまで以上に記憶の風化が叫ばれる現在、被爆体験の記憶の継承は大きな課題となっています。現代のアーティストたちはそうした現状を受け、様々な角度から被爆の実相にアプローチし、芸術表現へと昇華させています。本展では、数あるアーティストの中から、長崎にゆかりの深い森淳一と青木野枝を取り上げます。

青木野枝《ふりそそぐもの/朝香宮邸 II》2024年 鉄、ガラス 作家蔵
森淳一《Sally》2014年 木、大理石、象牙 作家蔵

特別出品

本展会期中、パブロ・ピカソ《ゲルニカ》の原寸大複製陶板を当館エントランスロビーに特別展示します。

パブロ・ピカソ《ゲルニカ(複製陶板)》1997年 大塚オーミ陶業株式会社蔵 
© 2025 – Succession Pablo Picasso – BCF (JAPAN)
《ゲルニカ》とは

ピカソが、スペイン内戦中の1937年、パリ万国博覧会のスペイン館の壁画を依頼されて制作した作品です。当初は政治的なスローガンとはかけ離れた主題の絵画を描く予定でしたが、同年4月26日にバスク地方の都市ゲルニカが反乱軍のフランコ将軍を支援するドイツ空軍によって空爆されたのをきっかけに、この無差別爆撃を激しく糾弾する絵画を驚くほどの短期間で仕上げました。
《ゲルニカ》は、ピカソの最高傑作であるのみならず、「戦争の世紀」といわれた20世紀を象徴する絵画であるといえます。
 このたび本展の特別出品としてエントランスロビーに展示される原寸大の複製陶板は、1997年に大塚オーミ陶業株式会社によって製作されました。同年7月に、完成した複製陶板を確認するために来日したピカソの息子クロード・ピカソが「今まで製作した複製の中でも最高の出来」と高く評価したように、本作はその完成度の高さから、原作が持つ絵画的な迫力、そしてそれが放つメッセージを十分に想像させるものです。

関連企画

記念シンポジウム

スペイン国立プラド美術館学芸員と日本国内のスペイン美術史研究を牽引する専門家各氏をお招きし、本展の内容をさらに広く深くお伝えするシンポジウムを開催します。

日時7月19日(土)13:30~17:30 (途中休憩、西日通訳あり)
発表者グートルン・マウラー(プラド美術館学芸員)
大髙保二郎(早稲田大学名誉教授)
木下亮(昭和女子大学特任教授)
松田健児(慶應義塾大学教授)
当館学芸員
会場ホール
定員先着80名
参加費無料

共催:スペイン・ラテンアメリカ美術史研修会 助成:(公財)鹿島美術財団

学芸員によるギャラリートーク

日時7月26日(土)、8月2日(土)、9月6日(土)各日14:00~15:00
会場企画展示室
定員各回先着20名
参加費無料(要本展観覧券)

アーティストトーク

日時8月9日(土)14:00~15:30
講師森淳一(彫刻家)、青木野枝(彫刻家)
会場常設展示室第1室
定員先着30名
参加費無料(要本展観覧券)

レクチャー「長崎原爆はいかに表象されたか」

日時8月23日(土)14:00~15:30
講師森園敦(長崎県美術館学芸員)
会場ホール
定員先着80名
参加費無料

特別講演会「プラド美術館の保存修復について」

日時9月7日(日)14:00~15:00
講師和田美奈子(プラド美術館保存修復課、紙作品修復士)
会場ホール
定員先着100名
参加費無料

筆談おしゃべり鑑賞会「見る・書く・読む・自分と出会う」※手話通訳あり・事前申込制

作品を見て感じたこと・考えたことを、大きな紙にどんどん書き出して伝え合う鑑賞会です。

日時8月30日(土)①10:00~12:30、②15:00~17:30
案内人小笠原新也(耳の聞こえない鑑賞案内人)
ゲスト前田真里(フリーアナウンサー/長崎大学核兵器廃絶研究センター客員研究員)
会場アトリエ、企画展示室
対象中学生以上(耳の聞こえる・聞こえない・聞こえにくい方どなたでも)
定員各回8名
参加費無料(要本展観覧券)
申込方法Webお申込みはこちら
FAXお申込みはこちら
申込締切8月16日(土)必着 ※8月23日(土)までに抽選結果をお知らせいたします。

筆談おしゃべり鑑賞会アフタートーク「見る+書く+読む=自分と出会う?」※手話通訳あり・当日受付制

日時8月31日(日)11:00~12:00 (10:45開場)
登壇者小笠原新也(耳の聞こえない鑑賞案内人)
前田真里(フリーアナウンサー/長崎大学核兵器廃絶研究センター客員研究員)
会場アトリエ
対象中学生以上(耳の聞こえる・聞こえない・聞こえにくい方どなたでも)
定員先着40名
参加費無料

基本情報

観覧料

一般1,500(1,300)円
大学生・70歳以上1,300(1,100)円

※高校生以下無料
※( )内は前売りおよび15名以上の団体料金
※身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、障害福祉サービス受給者証、地域相談支援受給者証、特定疾患医療受給者証、特定医療費(指定難病)医療受給者証、先天性血液凝固因子障害等医療受給者証、小児慢性特定疾病医療受給者証の提示者および介護者1名は5割減額
※会期中本展観覧券でコレクション展にも入場できます。

※前売券販売期間:5月31日(土)~7月18日(金)

前売券取扱い店

チケットぴあ(Pコード687-229)
ローソンチケット(Lコード81814)
セブンチケット(セブン-イレブン)
CNプレイガイド(ファミリーマート)
イープラス(eplus.jp)
好文堂書店
紀伊國屋書店 長崎店
メトロ書店 長崎本店
くさの書店チトセピア店
長崎県美術館

主催等

主催長崎県、長崎県美術館
共催NBC長崎放送
特別協賛株式会社西海建設
協賛大塚国際美術館、大塚オーミ陶業株式会社
助成(一財)地域創造、 芸術文化振興基金、(公財)長崎バス観光開発振興基金
後援スペイン大使館、インスティトゥト・セルバンテス東京、在福岡スペイン国名誉領事館、長崎市、長崎県教育委員会、長崎市教育委員会、長崎新聞社、西日本新聞社、毎日新聞社、読売新聞西部本社、NHK長崎放送局、長崎ケーブルメディア、エフエム長崎

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