文筆家でもあったソラーナは、著書『黒いスペイン』(マドリード、1920年刊)の中で、蝋人形館を訪れたときのことを書いている。そこで彼は、鏡張りのキャビネットの中に置かれた二体の小さな道化師の人形を見つけた。「…そのうちの一体は黒い衣装をつけ、赤い襞襟が首の周りを取り囲んでいた。襟からは白塗りの顔が伸びており、唇や額は青や赤で彩色されていた。胸には大きな星型の金糸の刺繍があり、金貨型の装飾が体全体に縫い付けられていた。もう一人の道化師は、ピンクの上下に白い胴着をつけていた。その髪は固められ、半分は赤紫、半分は黒に染められていた。二人とも足先を自分でつかみ、踊り始めた。キャビネットからはオルガンの音が流れ始め、彼らは互いの頭で、皿回しの棒を行ったりきたりさせるのだった。彼らの人数は、鏡に反射して三倍になった」(Jose Luiz Barrio-Garay, Jose Gutierrez Solana. Paintings and Writings, London, 1978, p.89)。衣装の色は部分的に異なるものの、衣装の型、道化師の髪型やポーズ、道具、鏡などの要素は、この作品に描かれているものと一致している。この絵の「軽業師」たちは、生身の人間ではなく、ソラーナが蝋人形館で目にした人形と考えて差し支えないだろう。この作品に見られる、サーカスの喧騒などとは無縁の奇妙な静けさは、描かれた対象が人形であることに由来すると思われる。 蝋人形は、仮面と並ぶソラーナ気に入りのモティーフのひとつであった。ソラーナの描く蝋人形は、「生命のあるものと生命のないもの」、あるいは「現実と虚構」との境界に位置する両義的な存在である。特にこの作品に描かれているのは、白塗りの顔に奇抜な衣装をつけた「道化師」の「蝋人形」であり、その二重に異化された姿はグロテスクな緊張に満ち、見る者を不安にさせつつ魅了する。こうした作品は、ゴヤからシュルレアリスムまでをつなぐ系譜の中にソラーナを位置づけるものにほかならない。
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